岐阜県内のスシローで、醤油差しや湯飲みを舐めて元に戻した少年のいたずら動画がかなり拡散されて騒ぎとなったが、スシロー運営会社がこの少年を相手取って6700万円の損害賠償請求を起こしたと、これまた大きな話題となった。
一頃はアルバイトの学生たちがいたずら動画をSNSなどにアップし「バイトテロ」などと呼ばれた。うち1件は神学生時代のわたしの馴染みの店だった。結局倒産したのだが。
いつの頃からなのか、やって良いことと悪いことの線引きがあやふやになり、それまではメディアの受け手でしかなかった普通の人間が誰でも発信者になれるツールとしてSNSなどが手軽になり、両輪が揃ったところで一気にいわゆる「迷惑動画」が流通しだしたように思う。加えて、迷惑であれ有意義であれ閲覧されるとそこに利益が生まれる仕掛けがそれを加速させた。一般人の発信が無視できない量になると、大手テレビのキー局は挙って自社のニュースに一般人からの投稿を採用するようになった。これまたいつの頃からか、どの局でも同じコメンティターが出演するようになっていたのだが、さらにどの局でも同じSNS動画が流れるようになった。制作費が押さえ込まれるようになると、コスト安のこういった募集はますます増えるわけで、そうなると結局見せられる側にとって選択肢は全く増えず、むしろ極端に少なくなってさえいる。「誰でも発信者」という割に、誰でもがバズる動画を撮影できるわけなどないのだから。
そしてある時、莫大な請求額の訴訟が起こる。その時どれだけ反省していても、その事実のみで赦されるいわば他者に寛容な社会ではとうになくなっているこの国で、これがどういう現象を次に引き起こすことになるのだろうか。
「メディアリテラシー」でさえ侭ならない中で、わたしたちが出来ることはひょっとしたらとても古びた価値観の再構築しかない。曰く、人の厭がることはやめよう、ってね。